技術者の顧客コミュニケーションと提案活動

仮説の修正は3つのレベルで考え、次の提案で検証する

以下は、電動アシスト自転車に関する技術マーケティング戦略仮説と顧客ヒアリング結果に基づくギャップ分析の仮想事例です。

都市型モビリティメーカーD社は、「通勤を快適かつ効率的に変える電動アシスト自転車」という仮説を設定し、軽量・高出力による快適走行を中心価値として提案した。

【①顧客経験価値のギャップ分析】機能的ベネフィットである「坂道でも疲れない移動」は顧客要求と概ね一致した。一方で、顧客は「盗難不安の解消」「雨天時の安心」「日常に調和するデザイン」といった感情・共感ベネフィットを強く求めており、D社の仮説は機能偏重であった。また、直接コスト(価格)は想定より高く評価され、加えて「充電の手間」「保管スペース」「盗難への心理的不安」といった間接コスト(経験コスト)が大きな障壁となっていた。この結果、顧客経験価値は「快適移動」単一ではなく、「安心・利便・所有満足」を含む複合価値であることが明確になった。

【②製品・サービスのギャップ分析】基本機能である走行性能は評価されたが、付加機能としての防犯機能(電子ロック等)や耐候性、バッテリーの取り外しやすさが不足していた。また、製品プラットフォームとしてスマートフォン連携機能が未整備であり、顧客の潜在ニーズである「移動の高度化」に対応できていなかった。さらに、販売方法は店舗中心であったが、顧客はオンライン購入や試乗サブスクなど柔軟な提供形態を求めており、ユーザーインタフェースも含めたサービス設計にギャップがあった。

【③バリューチェーンのギャップ分析】品質とコストを実現するプロセスにおいて、アフターサービス体制の弱さが顕在化した。顧客は迅速な修理や定期メンテナンスを期待していたが、販売店依存の体制では対応品質にばらつきがあった。また納期や部品供給の遅延も課題となり、利便性に影響を与えていた。さらに、顧客自身が行う充電・保管といったプロセス負担が大きく、バリューチェーン上で顧客への過度な依存が存在していた。

【④エコシステム・ビジネスモデルのギャップ分析】D社は製品販売モデルを前提としていたが、顧客は保険、駐輪場、メンテナンスを含めた統合サービスを期待していた。盗難不安を解消するには、セキュリティ企業や駐輪インフラ事業者との連携が不可欠であり、必要なプレイヤーが不足していた。また、サブスクリプション型利用やデータ連携サービスなど新たな関係性も求められており、単独完結型のビジネスモデルでは顧客経験価値を十分に実現できない構造が明らかとなった。

【⑤コア技術のギャップ分析】これらのギャップから、防犯IoT技術、バッテリーの長寿命化・高速充電技術、耐水・耐候設計などの技術要求が不足していると推定された。特に安心・利便価値を支える技術が不十分であり、走行性能中心の技術構成からの転換が必要と判断された。

■仮説の修正と次の顧客提案による検証

①仮説の修正

ギャップ分析が終わったら、技術マーケティング戦略仮説の修正を行ないます。仮説の修正は大きく3つのレベルに分けられます。

修正レベル1:ターゲット市場や顧客はそのまま、仮説を部分的に修正

仮説のうち、顧客経験価値、製品・サービス、エコシステム・ビジネスモデル、バリューチェーン、コア技術のいずれかの修正、あるいはすべてにおいて小幅な修正にとどめるケースです。

修正レベル2:ターゲット市場や顧客はそのままでも、仮説をコンセプトレベルで大幅修正

ターゲット市場、顧客は変わらなくても、仮説の中核である顧客経験価値や製品・サービスのコンセプトを大幅に修正するケースです。当然、エコシステム・ビジネスモデル、バリューチェーン、コア技術仮説も大幅に修正します。

修正レベル3:ターゲット市場レベルから見直し

ターゲット市場そのものから見直すケースです。有望市場調査で複数の市場を分析していますので、その中から新たなターゲット市場をピックアップするか、全く異なる市場のリストアップからやり直す場合もあります。

②次の顧客提案による検証

これまで述べてきた通り、技術マーケティング戦略の仮説検証の特徴は、単に製品・サービスの需要があるかどうかの検証にとどまらないところにあります。製品・サービスの提案によって、どのような顧客経験価値が生まれるのか、その顧客経験価値を創造するにはどのようなエコシステム・ビジネスモデルが必要か、製品・サービスを作り出すためのバリューチェーンはどうあるべきか、そしてそれらのベースとなる技術には何が必要なのかを、構造的にブレークダウンして検証し、ギャップを直視することが重要です。

そのギャップから、顧客経験価値→製品・サービス→エコシステム・ビジネスモデル→バリューチェーン→コア技術といった一連の技術マーケティング戦略の新しい仮説を構想していきますので、部分ではなく構造、システムとして仮説検証を行なうことが大切なのです。

提案の結果、ギャップが大きく、検証すべき市場の再設定からやり直すケースは少なくありません。その場合はとても苦労しますが、実際の新事業開発では、こうした見直しを繰り返してターゲット市場・ターゲット顧客を見つけていくものです。あきらめず粘り強く、仮説設定と市場検証をスピーディに繰り返すことが大事です。

また、その試行錯誤の過程で得られた経験知が、後に事業化されたとき生きてくることは十分にあります。したがって、試行錯誤の行為自体が他社との差別化につながるとも言えるでしょう。

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