この5つの要素のフレームワークで仮説を議論する際、前提となる条件は次の8つです。
①自社の弱みに目を向けるより、強みや可能性にフォーカスする
②部分から作りこむのではなく、全体を短時間で一気につくりこむ
③ワクワク感のあるもの、自分が主体になって取り組みたいものにする
④他の人に説明する際に、魅力的なストーリーになっている
⑤過去の常識を壊したイノベーティブなものにする
⑥技術者だけでなく、多様な部門、役割、専門、経験年数のメンバーを集めて議論する
⑦狙うべきビジネスの問題意識・パーパスを重視する
⑧ロジカルシンキングだけでなくデザインシンキング、システムシンキングも活用する

技術マーケティング戦略仮説構想の前提条件
注意すべきは、完全な技術マーケティング戦略仮説といったものは存在しないと理解し、この段階でパーフェクトを求めないことです。それよりも8条件の③④⑤にあるように、ワクワク感、魅力的ストーリー、イノベーティブさを重視しましょう。
それにはプロジェクトリーダーのリーダーシップ力、ファシリテーション力、メンバー構成とメンバーの自発性、好奇心、チャレンジ精神がとても重要になってきます。
ここから、技術マーケティング戦略仮説の5つの要素を詳しく説明していきます。
■顧客経験価値仮説
顧客が製品やサービスをネット上で簡単に比較検討できる現在、心理的な面も含め、自社の製品・サービスを顧客がどう感じ、どう受けとめるかを深く洞察した「顧客経験価値」の考え方が極めて重要です。
顧客経験価値とは、企業からの製品・サービス、そのコストや関連情報などの提供に対して、顧客の①感覚、②感情、③思考、④行動、⑤共感がどう効果的に働くかということです。この5つはコロンビア大学ビジネススクールのバーンド・H・シュミット教授が提唱した「経験価値モジュール」といわれるもので、顧客経験価値を表現する代表的なフレームワークです。

顧客経験価値とは「シュミットの経験モジュール」
「価値」の原則的な定義は、ベネフィットをコストで割ったもの(ベネフィット/コスト)です。従って顧客経験価値とは、顧客が得られる経験的ベネフィットと機能的ベネフィットの合計(分子)を、顧客が負担する金銭的コストおよび心理的・身体的負担である経験的コストの合計(分母)で割ったものになります。
少し複雑に見えますが、私たちが製品やサービスを購入する際にどんなことを考慮するか想像すると理解しやすいでしょう。特にZ世代以下の若者はコスパ重視の傾向が強く、この世代の顧客は経験価値に対して驚くほど敏感です。

顧客経験価値とは(どちらかといえばB2C)
顧客経験価値は、顧客の行動や気持ちに作用するものですから、時間軸で把握しなければなりません。時間軸を大まかに「使用前」「使用中」「使用後」に分けて、その間どのような顧客経験価値が発生しているかを想定します。経験価値は、上述した5つのモジュールの間をつなげつつ、それが時間軸に沿って変化するという複雑な動きをします。スマートフォンのアプリ、ゲームソフト、体験重視の旅行などの各種サービスでは、こういった経験価値をどう設計し、差別化するかが勝負となります。

時間軸でみた顧客経験価値
ただし、シュミット教授が提唱した「経験価値モジュール」は、どちらかといえばBtoCを意識したものです。BtoBビジネスにおいては、顧客ベネフィットを機能的ベネフィット、プロセスベネフィット、企業理念、戦略ベネフィットに分けて考えると、よりわかりやすいでしょう。それに対するコストは、製品・サービスの提供者に対して支払われる直接的・金銭的コストと、製品・サービスの選択、使用準備・学習、故障、修理、メンテナンス、非稼働コスト、廃棄処分コストなど、顧客が間接的に支払うコストの2つに分類します。
BtoBtoCビジネスの場合は、BtoCとBtoBの顧客経験価値の両方を検討するのがよいでしょう。

B2Bビジネスの顧客経験価値
以上BtoC、BtoBの顧客経験価値の定義を説明しましたが、仮説の段階であっても、どのような「価値=ベネフィット/コスト」を目指すべきなのかを明確にしなければなりません。